第29回東京国際映画祭の特集上映「映画監督 細田守の世界」にて、アメリカを中心に活躍するアニメーション監督の堤大介氏の短編作品『ムーム』、『ダム・キーパー』が上映されました。
堤監督はピクサー・アニメーション・スタジオでアートディレクターとして『モンスターズ・ユニバーシティ』などに参加し、現在はTonko Houseというアニメーションスタジオを設立しています。ロバート・コンドウと共同監督を務めた『ダム・キーパー』は、2014年の第87回アカデミー賞にて、短編アニメ賞にノミネートされました。
『ムーム』、『ダム・キーパー』の上映後、細田守監督、堤大介監督が登壇してのスペシャルトークが行われました。旧知の仲である細田監督と堤監督が、お互いの作品やアニメーション制作にかける思いなど、お二人の熱いトークをお届けします。
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登壇者:細田守(監督)/堤大介(『ダム・キーパー』『ムーム』監督)/氷川竜介(本特集プログラミング・アドバイザー/アニメ特撮研究家)
■細田:みなさん、『ダム・キーパー』ご覧になったんですよね? 素晴らしかったでしょう? この素晴らしい作品を作った堤監督に、話を聞いていきたいと思います。僕たちの出会いは2012年なんですよね。僕が『おおかみこどもの雨と雪』を作った時、堤さんが僕をピクサーに呼んで、ピクサーで上映する機会を作ってくれたんです。
■MC:細田監督は伝統的な2Dの手書きアニメ中心ですよね。3DCGのピクサーのアニメとは、だいぶあり方が違うのではないですか?
■細田:この時代になぜ手書きアニメなのかと聞かれる機会も多いんですが、僕自身はアニメーションには多様な技法があっていいと思っているんです。全部CGルックでなくてもいいと思うんですよね。多彩な表現方法を生かしてやっていくべきだと思うんです。『ダム・キーパー』なんかを観ると、表現の豊かさを感じてうれしくなるんですよね。
■堤:僕はCGで映画を作っていますが、いわゆる世間で思われているようなCGとは少し違います。アートディレクターではあるんですが、あまりルックにはこだわっていない部分があります。いろいろな表現の仕方があっていいと思っているし、お話によってルックを変えていかねばならないと思っています。実は、以前にも細田さんに聞いたことがあるのですが、細田さんがピクサーで監督をやったりする可能性はあるんでしょうか? 多様な技法を生かして、CGなどの違った表現を使う可能性はあったりしますか?
■細田:もちろん才能のある人、面白い作り手と仕事をしたいという思いはありますよ。ピクサーの現場はみんなすごい作り手ばかりなので、共闘して新しい壁を乗り越えていきたいとは思いますが、ビジネスになると難しいですよね……。でも堤さんや(堤氏と『ダム・キーパー』の共同監督を務める)ロバート(・コンドウ)さんと、個人的に一緒に何かを作りたいという思いはあります。
■堤:本当ですか? 僕は背伸びをしないとものづくりは実現しないと思っているので、やりましょうと言っちゃいますよ!
■細田:今、堤さんもいろいろ長編映画の計画があるんですよね? 今どのくらい進んでいるんですか?
■堤:映画ってドラマを描くことなんですけど、映画を作ること自体も本当にドラマですよね。まだ初期段階ですが、本当に映画作りって厳しいなと実感しています。
■細田:でも、あの素晴らしい職場環境を持つピクサーを辞めるというのはすごいことですよね。主体性を確保するために会社を辞めて、自らプロダクションを立ち上げて映画を作るっていうのは素晴らしいです。映画作りには主体性が本当に大事ですから。
■堤:僕がピクサーを辞めた原因の一つには、細田さんの言葉があるんですよ。細田さんが「そんなに熱く語るなんて、堤さんはアートディレクターっていうより監督向きだよね」とおっしゃったんです。その細田さんの言葉を信じて会社を辞めたんですよ(笑)。
■細田:でも、堤さんの胸の中にはものを作りたいという思いや力があったはずですよ。それを感じて、僕がそんなことを言ったんだと思うんです。そのみなぎるものがそれが短編という形で結実して、『ダム・キーパー』や『ムーム』になったわけですよね。それが長編としてどういう形になるのか、楽しみですね。一つ、堤さんに聞きたいのですが、ピクサーという会社で学んだ映画作りにとって大事なことってなんでしょうか?
■堤:ピクサーでよく言われたのは、「自分が作れるものを作りなさい」ということですね。流行やトレンドなど外を見るのではなく、内面から出るもの、自分にしか作れないもので映画を作るということです。
■細田:確かに、映画作りというのは、自分の内面から出てくることを根拠にしないと作りきれない部分はありますね。
■堤:もう一つ、ピクサーでは作品を見た社員が、みんな思ったことを素直に発言し、それで作品を改善していくというやり方を取り入れています。そのなかで自分が伝えたいと思ったことが、観客の意見に負けてしまう場合もあるのですが、それは自分のメッセージが弱かったということです。何が言いたかったのか、それがみんなに伝えられるような、他人の意見に打ち勝つ強さが必要になるんです。客観的な意見を取り入れながら、自分のメッセージをいかに主張していくか、客観性と主体性のバランスをとるというのはとても難しいところで、僕にとってもまだちゃんとした答えはないんです。細田監督は、他の方の意見を聞く時に、どうされていますか?
■細田:これは常に作り手がさらされている問題ですよね。どこまで聞いて、どこまで聞かないか。でも、客観的ないい意見によって、作品がぐっと良くなるということが、確かにあるんです。信頼できる人や、作品を価値あるものにするために言ってくれている人の言葉であれば、聞いて作品に反映させていくべきだと思います。
文:松村知恵美
画像:(C)2016 TIFF