下半身スキャンダルを繰り返し、そのあまりの「懲りなさ」で全米を騒然とさせたスキャンダル政治家アンソニー・ウィーナーを追ったドキュメンタリー『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』の特別試写会が2月6日(月)に開催された。
あわせて開催されたトークイベントに招かれたのは、日本を代表するスキャンダル政治家たちだ。東国原英夫、橋下徹、細野豪志、鈴木章浩、上西小百合、後藤田正純、高木毅、山崎拓、田中真紀子、辻元清美、鈴木宗男……果たして、実際に来場してくれるのか?
トークイベントの幕が上がると、最初に登場したのは、そんな錚々たる面々を迎え撃つべくゲストとして招かれた、辛口コメンテーターとしても知られる評論家の宇野常寛だ。「何で僕が呼ばれたのかまだよく分かってないのですが、“炎上しそうな奴を呼ぼう”ということで呼ばれたのかなと思います。なので、炎上を恐れずに切り込んでいきたいです」と意気込みを語った。客席の最前列には、招待した政治家の名前が貼られた席が確保されていた。しかし、誰も来ていない――そんな中、たった一人駆けつけた果敢な政治家がいた。過激な発言でたびたびメディアの注目を集めてきた、衆議院議員の上西小百合だ。
上西は壇上にあがると、「『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』はすごく気に入って4回も観ちゃいました!トークイベントにご招待していただき、絶対に行きたくて大阪から飛んで来ました」と声を弾ませた。
宇野が「この映画を観て、二つのことを思いました。一つは、インターネットが広まり始めた時期に人々が見ていた未来が現実になったなということ。一人一人が情報の発信者になった結果、人の仮面が容易に剥がされていくようになった。もう一つは、こんな時代には民主主義なんて機能しないということ。乾いた絶望を感じましたね」と、映画から受け取った現代社会に通じるテーマについて語った。
上西も「国民の皆さんが知りたいのは、政治家たちが掲げる政策がいかに自分の生活に密着しているということ。でも、どういった法案が審議されているかを実際に知っている人は少ない」と、政策と直接関係のないプライベートの話題にばかり世間の注目が集まることに、政治家として感じているもどかしさを吐露した。『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』で描かれるのは、下半身スキャンダルで失脚した政治家アンソニー・ウィーナーが、再起を懸けてNY市長選に挑み、その渦中で再びスキャンダルが発覚するという、一人の男の転落劇だが、そこでも、ウィーナーのスキャンダルにマスコミの質問が集中し、政策について何も聞かれないことに彼が憤る一面がある。上西は、そういった意味でウィーナーに共感を覚えたのかもしれない。
宇野も、「世間の人は、政治について議論することは、けしからん政治家を吊るし上げることだと思っている」と述べ、「Twitterの普及はインターネットの一つのターニング・ポイントだった。インターネットが、マスコミに乗っからない自由な言論の場ではなくなった。週に1回生贄を選んで、ワイドショー的な“いじめエンターテイメント”を披露する場になった。要は、テレビや新聞といったオールド・メディアの補完装置になってしまったわけですよ。インターネットが敗北して、取り込まれていったんです」と憂えた。上西もそれに同意しつつ、「アメリカはとても広大。そうした土地だからこそ、SNSが国民に大きく影響する。でも、日本ではいくらTwitterで発信してもタカが知れている。1%が100万人と言われる視聴率。Twitterに太刀打ちはできません」と独自の見解を露わにした。続けて上西は、日本社会がどんどん不寛容になっている現実に不安を覚えていると漏らし、「弱い者を守るという考えがなくなってきている。インターネットで、炎上している人間に石を投げて喜んでいるような人は、そういうことをしてもどうにもならないっていうことに気づいて欲しい」と訴えた。
さらに宇野は、政治家に完璧な人間像を求めること事態がおかしいのだと主張。「人間はそんなに聖人君子じゃない。それがこれまで表に出なかったのは、インターネットがなかったからというだけ。インターネットが誕生した時点で、政治家に人格を求めないほうがいい。そうじゃないと、プライバシーへの防御力が高い人間が、政治家として出世していく、なんていうことになる」。ウィーナーはインターネットを通じて身を滅ぼしたが、政治家たるものやましいプライベートが何もないと考える大衆にも問題があるのではと投げかけた。
最後に、映画の見所について聞かれると、上西は「エンドロールが流れる直前のシーン」と即答。「観ていただければ分かりますが、あのシーンでのウィーナーはまさに今の私」と、ウィーナーに自分を重ねて答えた。宇野は「ウィーナーの奥さんのフーマがポイント。彼女は聡明な人物で、どういう構造でこの状況が生まれたのか、背景にどんな事情があるのか、何もかも分かっている。それゆえに、彼女は無力。その無力感に一番共感した。このどん詰まり感。映画の中で何度も見せる、あの何ともいえない表情。聡明であるがゆえに何もできないということ。ゆるやかな絶望」とヒラリー・クリントンの側近として活躍してきたウィーナーの妻が直面した“絶望”に着目した。
ウィーナーに共感した上西と、妻フーマの絶望に圧倒された宇野。こうして、日本の政界、言論界から駆けつけてくれた二人のゲストはまだまだ語り足りないといった様子で、大きな盛り上がりを見せる中、トークイベントは幕を閉じた。