荒野を彷徨うかのように逃げてきた傷ついた若い男。荒れ果てた家に住むさえない中年男と狂女、そして口のきけない美少女。黒づくめの殺し屋が静かにやって来る。墓場に埋められたはずの100万ドルを奪い合い、男たちの闘いが、いま始まる―!
わずか7人の登場人物、“アメリカ”が舞台でありながらイスラエル・ネゲヴ砂漠で撮影されたドイツ映画『デッドロック』は、伝説のジャーマン・ロックバンドCAN(カン)のサイケデリックなサウンドトラックが鳴り響き、明らかにセルジオ・レオーネの『続・夕陽のガンマン』を思わせる物語にも関わらず、アレハンドロ・ホドロフスキーの『エル・トポ』やジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』の影響下にあるようなポストアポカリプス的雰囲気に溢れている。
本作は1970年のカンヌ映画祭からコンペティション出品オファーを受けるが、ドイツ国内の監督や批評家から、当時勃興していたニュー・ジャーマン・シネマを貶めるものだと出品を反対され、特別上映というかたちでの上映に。ところが当日が雨で少数の観客だけでの上映となりその後の『デッドロック』のカルト化に拍車をかけることになった。しかしドイツ国内では興行的に成功、ドイツ映画賞長編作品賞に選出される。
出演は、マカロニ・ウエスタン『暁のガンマン』『スペシャリスト』などで知られるイタリア系ドイツ人俳優マリオ・アドルフ、『ダイヤルMを廻せ!』や『007は殺しの番号』のイギリス人俳優アンソニー・ドーソン、『聖なるパン助に注意』などファスビンダー作品でおなじみのマルクヴァルト・ボーム、そして、同じくファスビンダーのSF『あやつり糸の世界』のマーシャ・ラベンら。音楽はクラウトロック(ジャーマン・ロック)を代表する前衛バンドCAN(カン/イエジー・スコリモフスキ監督『早春』)が担当している。
その後、ハリウッドやマカロニ・ウエスタンをはじめとしたイタリア映画界の誘いをすべて断った監督のローラント・クリックは、ドイツ映画界でも話題に上ることもなかった。しかし、わざわざクリックをハリウッドに招待したスティーブン・スピルバーグをはじめ、アレハンドロ、・ホドロフスキーやクエンティン・タランティーノらがその自由さと大胆さを絶賛しており、今の映画界に与えた影響は計り知れない。今回、お披露目されたチラシビジュアルにはホドロフスキーの「ファンタスティックで、ビザールで、ギラついている。」という本作への賛辞を寄せたコメントを採用している。
ファスビンダー、ヘルツォーク、ヴェンダース、シュレンドルフらニュー・ジャーマン・シネマの代表とされた監督たちと同世代でありながら、徒党を組むことを拒み、栄光に背を向けて独自の世界を追い求めた“ドイツ映画の孤狼”ローラント・クリックが、ついに日本に初上陸に果たす。
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