青幻記 遠い日の母は美しく 作品情報
せいげんきとおいひのはははうつくしく
わたしは、三十年たった今も、母のことが忘れられない。ふるさとの沖永良部島の青い海と白いサンゴ礁のなかに、なつかしく、くっきり見える。ついに島を訪れたわたしは、母の幻を見た。そして、すっかり老いた鶴禎老人に会った。過ぎ去った昔の想い出を、うすれた記憶にたどる老人だった。わたしの追憶も、あの三十年前の情景をありありとよみがえらせていく。若く美しい母と、幼いわたしの日々を……。鹿児島での祖父と、祖父の妾のたかとくらしたつらい生活から逃げるようにして、船に乗り、島を初めて見たのは、母が三十歳、わたしが小学校二年生、昭和となってまもない頃だった。母と祖父とわたしの三人の、貧しくとも温く肩を寄せ合った島の生活が始まった。母は、学校帰りのわたしを、毎日迎えてくれた。それよりも、わたしは一度でもいいから、母に抱きしめてもらいたかった。しかし、母は、病いのうつることを恐れて、決してわたしにふれなかった。台風のくる頃、海は荒れ、島の食糧は枯れ、灯りの油すら買えず、闇の中でひっそり眠った。それでも、年に一度の敬老の宴で、村人たちは夜のふけるまで、酒をくみ、踊った。母の踊りは、かがり火に映え、悲しみをはくような胸苦しいまでに美しい踊りであった。そして、冬のある晴れた日、サンゴ礁で、草舟を浮かべたり、魚を捕ったりして、半日を遊んだ母とわたし。それが、母とわたしの最後の日であった。母の葬いの日。母の死の理解できないわたしは、祖母につれられ、ユタを訪ねた。ユタの夜、わたしは、母の声を幻のようにきいた。……稔さん、お母さんは、一度でいいから、あなたを力一杯抱きしめてあげたかった……稔さん……稔さん……。
「青幻記 遠い日の母は美しく」の解説
奄美諸島のひとつ沖永良部島を舞台に、母と子の哀しく清々しい情愛を、美しい厳粛な大自然と対面しながら、謳いあげる。原作は一色次郎の同名小説で、「儀式」のカメラマンの成島東一郎の脚本・撮影も担当した監督第一回作品である。脚本は他に平岩弓枝、伊藤昌輝が共同執筆。
公開日・キャスト、その他基本情報
公開日 | 1973年2月24日 |
---|---|
キャスト |
監督:成島東一郎
原作:一色次郎 出演:田村高廣 賀来敦子 山岡久乃 戸浦六宏 小松方正 藤原釜足 原泉 浜村純 殿山泰司 三戸部スエ 田中筆子 大井一成 新井庸弘 伊藤雄之助 |
配給 | 東和 |
制作国 | 日本(1973) |
上映時間 | 117分 |
ユーザーレビュー
レビューの投稿はまだありません。
「青幻記 遠い日の母は美しく」を見た感想など、レビュー投稿を受け付けております。あなたの映画レビューをお待ちしております。