P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★☆☆
- 投稿日
- 2023-11-23
村野鐵太郎監督のATG映画「鬼の詩」は、藤本義一の直木賞受賞の小説の映画化で、明治末期の大阪の実在の落語家・桂馬喬をモデルにして、芸の鬼の凄まじい生き方を描いた作品だ。
彼の芸熱心は狂的で、陽気で華やかな芸風の先輩落語家・桂露久(露の五郎)の芸を盗もうと必死になる。
しかし彼は結局、高座で馬糞を食ってみせるというような、自虐的なやり方で評判になる。
物事にとことんムキになる人物に対する村野鐵太郎監督の執着は、この作品で一種異様な人間像を作り出すことに、ある程度は成功していると思う。
また、それが、商業映画の単純なヒロイズムの枠から大幅にはみ出して、一途であることの悲惨と、一途であらざるを得ない境遇や立場の残酷さというところまで、くっきりと描き出すところまで行き着いたことによって、村野鐵太郎監督の独自の世界が確立されていると思う。
ただ、この主人公の自虐的な態度の描き方は、あまりにストレートで余裕がなく、感動するより先にまいってしまったという印象だった。