旅芸人の記録 感想・レビュー 7件
たびげいにんのきろく
総合評価5点、「旅芸人の記録」を見た方の感想・レビュー情報です。投稿はこちらから受け付けております。
P.N.「pinewood」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-10-21
⛵今朝のNHKラジオ深夜便作曲家・筒美京平特集,ジュディ・オングの魅せられては越路吹雪が提供したギリシアの楽器ブズーキが演奏で使われたと云う。池田満寿夫原作の映画エーゲ海に捧ぐ・音楽エンニオ・モリコーネ等にインスパイアされ創られたとも。岩波ホール公開で話題を呼んだ本篇監督のテオ・アンゲロプロスの想い出も。オリーブの樹,白い建物,海の碧さ,アクロポリスの丘,神殿,女神そして池田満寿夫の本にエッセイに版画作品も一緒に
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-06-14
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
ギリシャが400年に渡るトルコの支配から脱して独立したのは20世紀の初頭であり、第二次世界大戦中のイタリアとドイツの侵略と、それに続く国際紛争の中の内乱による国土の荒廃から立ち上がって、近代化の努力を現在も続けているのです。
風光明媚なエーゲ海といったものだけに目を奪われてはならないし、この国を古代文明の観光地とだけ考えてはいけないような気がします。
アイスキュロスの「オレステイア」は、トロイ戦争の際、ギリシャ側の総大将アガメムノン出征の間、その妻クリュタイムネストラはアイギストスと情を通じ、帰国した夫を、二人で共謀して殺害します。
娘のエレクトラは、母と情夫の棲む家で奴隷にされながら、あらゆる屈辱と辛酸を耐え忍んでいきます。
そして成人した弟のオレステスを手引きして、母とその愛人を殺させ、父の仇を討つのです。
オレステスを援助する親友のピュラデスはエレクトラの恋人です。
この映画「旅芸人の記録」での旅芸人の一座は、このギリシャ神話になぞって構成されていて、ナチスに通じて父を殺した母の情夫を、ゲリラに身を投じてギリシャの自主独立のために闘う弟オレステス(ペトロス・ザルカディス)が、姉エレクトラ(エヴァ・コタマニドゥ)の手助けを得て、母もろとも射殺するのです。 しかし、オレステスは捕らえられて処刑されます。 そして、その葬送の時、エレクトラは、この映画の原題でもある「あはよう、タソス」と呼びかけ、泣きながら拍手するのです。 「おはよう、タソス」で始まる5幕ものの田園劇「羊飼いの少女ゴルフォ」は、スピリドーノス・ペレシアドスの作で、貧しい羊飼いの娘ゴルフォは、やはり貧しいタソスと愛し合っていますが、金持ちの娘スタヴルーラがタソスを、また裕福な男キッツォスがゴルフォをそれぞれ慕っていて、ゴルフォはキッツォスを相手にしませんが、タソスは偶然に大金を手に入れてから金の魅力にとり憑かれ、そして金持ちのスタヴルーラに迫られて、ゴルフォを捨てて結婚しようとします。
そのタソスの心変わりに失望したゴルフォは毒を飲んでしまいます。 金に迷った自分の過ちに気づいたタソスが、ゴルフォの所に駆けつけて来た時には、時すでに遅く、タソスは自ら短剣で胸を刺して、ゴルフォと重なって死ぬのです。 この芝居にも"現代ギリシャの悲劇"が寓意的に扱われているのです。 大国からの干渉に動揺するギリシャ。 貧しいながら愛情を守り抜いて死ぬゴルフォの姿に、自国の誇りを見ようとしているのだと思います。 舞台でゴルフォを演じるエレクトラの役は変わりませんが、タソスを演じる相手役は、父アガメムノンから引き継いだ弟オレステスに、そして彼が徴兵されてからは恋人のピュラデスに、そのピュラデスが母の情夫のアイギストスの密告で島送りになってからは、仇のアイギストスにと次々と変わっていきます。
最後に、アイギストスがゲリラとなったオレステスに殺された後を、妹クリュソテミの成長した息子がタソス役で初舞台を踏むのです。 そして、この若々しいタソスに向かって、もう若くはないエレクトラが、「オレステス!」と死んだ弟の名を呟くのです。 そして、再び、「羊飼いの少女ゴルフォ」の幕が開いて、その最初のセリフが「おはよう、タソス」なのです。 上映時間が4時間に近いこの映画の特色は、一シーン=一カットで撮っている事だと思います。 ショットの長い映画は、冷静で客観的にストーリーを観察する事が出来ると言われていますが、このテオ・アンゲロプロス監督が、大きな危険を冒して作った"愛国の情熱"が、現代ギリシャの悲劇を神話の形を借りて具現化しているエレクトラの姿を通して、我々観る者の胸に迫ってくるのです。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-06-14
このギリシャ映画「旅芸人の記録」は、1975年度のカンヌ国際映画祭で国際批評家大賞を受賞した作品で、この映画の監督・脚本のテオ・アンゲロプロスがギリシャの軍事政権下のもとで、4年の歳月をかけて「軍事政権への政治的反撃として、自殺的行為にほかならなかった」と製作意図を語っており、軍事政権崩壊後の1975年に完成させた、映画史に残る不朽の名作です。
この作品は、第二次世界大戦前夜の1939年から、パパゴス元帥による右翼勝利の1952年までの、"現代ギリシャの激動の歴史"を、ギリシャ神話の「オレステイア」と、劇中劇である19世紀末に書かれた田園劇「羊飼いの少女ゴルフォ」の二つの悲劇を重ねて暗喩的に描かれていきます。
古代ギリシャの繁栄は誰もが知っていますが、現代ギリシャの歴史が、大国の利害に弄ばれた苦難の歴史であった事はあまり知られていないのではないかと思います。
P.N.「pinewood」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-06-14
映画をビデオ等で1·5倍速で見たりすることが流行って居ると聴くけれども,全く説明的で無い本篇のような作品に取り時間の経過そのものが主題なので倍速は全く問題外何だろうと想う。寧ろもっとゆっくり味合う時間,揺蕩うことが必要何だろう。
P.N.「pinewood」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2019-11-07
「哀しみの南京~地獄の12月」と云うmonologueメインの二人芝居を観てると,ギリシャ悲劇とギリシャの軍の専制政治とを自由なtenseで準えて紡ぐ本篇の演劇styleが想起された
P.N.「グスタフ」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2019-10-14
芸術は政治的な判断を決定付けてはならない。映画も、思考の自由を理想とした、人間や取り巻く社会の冷静で客観的な観察者でなければならない。このテオ・アンゲロプロス監督のギリシャ演劇を土台とした政治に翻弄される旅芸人物語は、その理想のところにある。ワンショット・ワンシークエンスが連続する特殊な話法で導かれた視界は、自然に苦も無く私たちを静かな観察者にしてしまう。なんて大胆で意思強固な作家魂だろう。同じくギリシャ出身のジュールス・ダッシン監督の政治に影響を受ける宗教劇「宿命」を連想させるが、今作はまた格別だ。
姉エレクトラらに拍手を持って送られるオレステスの埋葬シーンに見せる、民衆の力。エレクトラの妹クリュソテミと米兵の結婚披露宴で長く白いテーブルクロスを無言で引く息子の抵抗にある虚無感。そして、秘密警官に強姦された後に、観察者に顔を向けて切々と語るエレクトラの政治情勢についてのモノローグ。演劇と映画の表現が合体した映画文体が自立してそびえ立つ。
P.N.「PineWood」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2017-03-19
テオ・アンゲロプロス監督のギリシャ映画<旅芸人の記録>のアコーデイオンの音を耳にしたら一生忘れないだろう…。♪そしてゆっくりとした映像と動画の対極に在るような固定カメラの前で真正面から話す語り部の姿。だから、激動のギリシャの政治は旅芸人の芝居によって縦横無尽に演じられ唄われる♪。動きの少ない画面が日常生活の中に潜むドラマを激烈に浮上させる。大地に聳える大樹の如く佇みながら…。決してたどり着かないし答えも無いのに!アンゲロプロス監督はTV 出身だが無声映画の原点に還って往ったー。