P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★☆☆
- 投稿日
- 2024-05-31
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
このスウェーデン映画「刑事マルティン・ベック」は、原作がマイ・シューヴァルとペール・ヴァールーの夫婦合作のマルティン・ベックシリーズの1作で、日本でも私のような推理小説ファンの間で圧倒的な支持を受けている、この警察小説シリーズ7作目の「唾棄すべき男」であり、「みじかくも美しく燃え」「サッカー小僧」のボー・ヴィデルベルイ監督が映画化した作品ですね。
ストックホルムのある病院で、深夜、入院中のニーマンという警部が銃剣で惨殺される冒頭の場面は、犯人の顔を見せないミステリー・ムード漂う描写が背筋も凍るほどの不気味な効果を上げていて、実に素晴らしい。
被害者のニーマンは、古顔の警部で、法規一点張りの情け容赦のない鬼警官だった。
ボー・ヴィデルベルイは監督だけでなく、編集と衣裳も担当し、脚本も自分で書いているが、原作にほぼ忠実で、映像化も律儀にやっていると思う。
その律儀なところが、部分部分ではいい味を出しているが、サスペンス映画としては、もの足りないものにしている。
マルティン・ベックに扮するのは、カルル・グスタフ・リンドステットという太り気味の初老の俳優で、とにかく渋くて風采のあがらない生活派で、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「モンパルナスの夜」でメグレ警視を演じた名優だ。 そのマルティン・ベックが、中年の刑事ホーカン・セルネル扮するエイナル・ルンと共に、殺されたニーマン警部の夫人を初め、いろいろな人物から聞き込みをして、犯人がニーマン警部に対する恨みを警察全体に広げた奴であることを突き止める経過は、アメリカ映画のポリス・アクションものと違って、非常に地味なタッチで描かれていて、どうも抑揚というか、メリハリがなくなって、少々退屈してしまう。 そして、犯人がビルの屋上に陣どり、高性能のライフルで地上の警官を射殺し始めたので、大騒ぎになるというクライマックスは、ストックホルム市街の俯瞰撮影が美しく、逃げ惑う市民などがパニック状態になっていく段取りも悪くないのだが、しかし、マルティン・ベックたちが犯人のいる屋上へ向かう冒険アクションになると、どうも手際がよくない。
この場面では、マルティン・ベックが屋根に上がるのに失敗するので、スヴェン・ヴォルテル扮する若いコルベリ刑事や、トーマス・ヘルベルク扮するラーソン刑事の活躍になるのだが、もっと派手にやっても良かったと思う。 犯人に撃たれて、ヘリコプターが群衆の中に落ちるシーンなどは、アメリカ映画ならアッと言わせるところだが、どうも今一、盛り上がりに欠けるのだ。 そして、ラストまで犯人の顔を、よく見せない撮り方も、そんな必要があるのかと思わせる。 この撮り方のために、サスペンスがだいぶ薄れていると思う。 天窓のガラスが割れて、屋根裏部屋の老人と顔が合うところなど、犯人の性格を表わす絶好のシーンになるはずなのに、活用していない。 ケレンを嫌って、地味に作ろうとしたのかも知れないが、派手な銃撃戦になるのは原作の設定通りなのだから、ここで技巧の限りを尽くして、前半の退屈を忘れさせてもらいたかった。