心中天網島 作品情報
しんじゅうてんのあみじま
大阪天満御前町の紙屋治兵衛は、女房子供のある身で、曽根崎新地紀伊国屋お抱えの遊女小春と深く馴染み、情死のおそれもあった。これを案じた治兵衛の兄粉屋の孫右衛門は、武士姿に仮装し、河庄に小春を呼び出した。孫右衛門は、小春に治兵衛と別れるようさとし、その本心を問いただした。小春は治兵衛と死ぬ積りはないと言った。折から、この里を訪れていた治兵衛は二人の話を立聞きし、狂ったように脇差で斬りこんだ。だが、孫右衛門に制せられ、両手を格子に縛られてしまった。そこへ恋敵の太兵衛が通りかかり、さんざん罵り辱しめた。これを聞きつけた孫右衛門は、表に飛びだし太兵衛を懲しめ、治兵衛には仮装を解いて誡めた。治兵衛は目が覚めた思いだった。そして小春からの起請文を投げかえして帰った。数日後、治兵衛は太兵衛が小春を身請けするとの噂を聞いた。悔し涙にくれる治兵衛。これを見た妻のおさんは、始めて小春の心変りは自分が手紙で頼んでやったことと打明けた。そして、小春の自害をおそれ、夫をせきたてて身請けの金を用意させようとした。おさんの父五左衛門が娘を離別させたのはそんな折だった。それから間もなく、治兵衛は小春と網島の大長寺で心中した。
「心中天網島」の解説
近松門左衛門の同名原作を「あかね雲」の篠田正浩と詩人の富岡多恵子と武満徹が共同で脚色し、篠田が監督した文芸もの、撮影は、「雪夫人繪圖(1969)」の成島東一郎が担当した。第43回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位。
公開日・キャスト、その他基本情報
キャスト |
監督:篠田正浩
原作:近松門左衛門 出演:岩下志麻 岩下志麻 中村吉右衛門 小松方正 滝田裕介 藤原釜足 加藤嘉 河原崎しづ江 左時枝 日高澄子 浜村純 土屋晋次 戸沢香織 赤塚真人 上原運子 陶隆 牧田正嗣 天井桟敷 |
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配給 | ATG |
制作国 | 日本(1969) |
上映時間 | 103分 |
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ユーザーレビュー
総合評価:5点★★★★★、2件の投稿があります。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2025-04-17
篠田正浩監督の「心中天網島」は、彼の作品の中で、最高傑作だと思う。
この作品は、近松門左衛門の原作の映画化で、日常性から脱却して、非日常性の世界へ没入する事によって、美と恍惚とエロティシズムの極致を探索した作品だと思う。
この作品で、紙屋治兵衛(中村吉右衛門)の妻おさんと、遊女の小春の二役を演じたのが岩下志麻だが、おさんは日常性を代表した女だ。
すでに、おさんは、治兵衛にとってはエロティシズムの対象とはならない存在で、彼が言う、愛している小春とは、非日常の中で、永久に美の陶酔と悦楽を持続させなければならないのだ。
そして、そのためには、死が絶対の必要条件なのだ。
死を決意した治兵衛と小春が、叢の中で抱き合うセックス・シーンは、それまでの日本映画で表現されたエロティシズムの場面としても最高のものであったと思う。
死と隣り合わせになって、初めてエロティシズムは完遂する。
それはもう完全に非日常の世界なのだ。
「死にたい」と低い声が、情事の絶頂に洩れる。
思えば、性的なエクスタシーの絶頂の中で死ぬことこそ、純粋な悦楽の極致でなくて何であろう。
治兵衛の死体が、ブラリとぶら下がっているロング・ショットには、エロティシズムと紙一重のところに横たわる、篠田正浩監督特有の、何とも言えぬ空しさが込められていると思う。
この作品における、絢爛豪華な目を奪う、映像的なテクニックは、極めて耽美的であると同時に、その底に流れているのは、やはり無常観なのだと思う。