オーストリア出身のユダヤ人作家、シュテファン・ツヴァイク。豊かな芸術文化を誇ったウィーンで育ち、ロマン・ロランやマクシム・ゴーリキーなど、世界中の文化人と交流を持った作家としても知られている。「マリー・アントワネット」や「ジョゼフ・フーシェ」といった評伝や、歴史短編集「人類の星の時間」など、数々の名作を世に残したが、ナチス・ドイツ台頭後に反ユダヤ主義がオーストリアに影響を与えたことで、イギリスへの亡命を余儀なくされた。その後も、アメリカやブラジルに滞在しながら、「チェスの話」や自伝的回想録「昨日の世界」などの執筆を続けたが、1942年に亡命先のブラジルで自ら命を絶った。
映画ファンのなかでツヴァイクといえば、ウェス・アンダーソン監督が『グランド・ブダペスト・ホテル』で献辞を捧げた作家として知られている。日本では、「チェスの話」が俳優の故・児玉清の愛読書というのは有名な話であり、また黒柳徹子もツヴァイクの大ファンだと複数のメディアで語っている。『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』以外にも、数多く作られているツヴァイクに関連した傑作映画 5 選をご紹介!
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1⃣『マリー・アントワネットの生涯』(1938)
ツヴァイクの代表作であり、池田理代子の人気マンガ「ベルサイユのばら」の基になったとも言われている評伝「マリー・アントワネット」が原作。ハリウッドのメジャー会社 MGM の威信をかけた超大作であり、豪華絢爛な衣装やセット、画面を埋め尽くすエキストラなど、壮大なスケールでマリー・アントワネットの生涯が描かれた。主演のノーマ・シアラーは本作でヴェネツィア国際映画祭女優賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされた。彼女は本作への出演のために、のちの名作映画『風と共に去りぬ』の主役を辞退したという逸話が残っている。
2⃣『忘れじの面影』(1948)
1922 年の中篇小説「未知の女の手紙」を原作としたアメリカ映画。ドイツから亡命したユダヤ人監督のマックス・オフュルスが監督を務めた。物語の舞台は 1900 年頃のウィーン。決闘から夜逃げしようとしていた主人公ステファンのもとに見知らぬ女性から一通の手紙が届く。「これを読む頃、私は死んでるでしょう」と始まる手紙を読んだステファンは、過去に関係を持った女性リザのことを思い出し、とある決心をするのだった。2004 年に『見知らぬ女からの手紙』として映画化されるなど、これまで幾度も映像化・舞台化されている。
3⃣『不安』(1954)
原作は、みすず書房から刊行された「チェスの話 ツヴァイク短篇選」に所収されている。監督はネオレアリズモの巨匠ロベルト・ロッセリーニ。弁護士の妻の不倫を描いた物語だが、実際に不倫関係から結婚(のちに離婚)したロッセリーニとイングリッド・バーグマンがタッグを組んだ。イタリア語版は日本でも IVC から DVD が発売されている。
4⃣『暮れ逢い』(2013)
未完の中編小説「過去への旅」を映画化した作品。長らく原作は未邦訳だったが、2021 年に「チェス奇譚」(チェスの話)とともにルリユール叢書から刊行された。20 世紀初頭のドイツを舞台に、裕福な実業家の妻と秘書の許されぬ恋を、『仕立て屋の恋』(89)や『髪結いの亭主』(90)で知られる名匠パトリス・ルコントが監督した大人のラブストーリー。ルコントにとって初の英語作品でもある。
5⃣「Stefan Zweig： Farewell to Europe」(2016)
ツヴァイクが原作ではなく、彼自身の晩年を映画化した伝記映画(日本未公開)。亡命後の 1936 年から 1942 年にブラジルで亡くなるまでの晩年の葛藤が描かれる。監督・脚本は『SHE SAID／シー・セッド その名を暴け』(22)のマリア・シュラーダー。また、『ベルリン・アレクサンダー広場』(80)のバルバラ・スコヴァがツヴァイクの前妻フリーデリケを演じ、ドイツ映画賞にノミネートされるなど高評価を得た。
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そして、ナチス占領下のオーストリアを舞台に、ヒトラーの命令でホテルに監禁された男が1冊のチェス本を武器にナチスとの心理戦に挑む驚愕のサスペンス映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』が今年公開となる。
原案の「チェスの話」はナチスを直接題材にした唯一のフィクション。同小説は 1960 年にもクルト・ユルゲンス主演で「Brainwashed」として映画化されている。『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』では、原作の主人公でもある語り手が不在であったり、衝撃のラストが追加されるなど、原作からの改変点がいくつか見られる。現代の新たな解釈で、不朽の名作を映画化した作品となっている。
スリルに満ちた展開から目を離せない、観る者の心をかき乱すヒューマン・サスペンス『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』は 7月21日(金)よりシネマート新宿他全国順次ロードショー！
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