名無し 感想・レビュー 1件

ななし

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P.N.「鎌倉の隠居」さんからの投稿

評価
★★★☆☆
投稿日
2026-05-03

 このGWに開催中の第4回横浜国際映画祭正式招待作品となったMEGUMI企画・プロデュース、木村太一監督・脚本の『FUJIKO』は、時代相をフィルムに刻んだ、ある意味前衛的作品である。
 舞台は1970年末から80年代初頭にかけての静岡の小都市。凡庸な小市民世界に生起する、ステレオタイプとひと言で括りたくなる既視感溢れた時空の切り取りである。初期型のウォークマンが小道具として使われ、中ピ連のヘルメットを被りシュプレヒコールを言挙げる女性たちが時の象徴のように点描される。 
 アニメ、VFX全盛の現況にあって、本作を広く世に問う意図、狙いは奈辺にありや。MEGUMI企画・プロデュースのクレジットに、観客は等しく、そう思いを巡らすはずである。しかも、熱演する片山友希扮するFUJIKOを取り巻く、いずれも名だたる芸達者揃いに、作品が目指す方向をずっと熟考させられる。そして思い至る。この物語の時制からすでに30年以上が過ぎ去っている。しかし、いま、時代は明らかに勢いを失い、同じ状況を苦しく生きる人々の在り様は、何ら変わるところがない、というより時代が勢いを失っている分、事情は後退している。シングルマザーは今も過酷で、将来はなんら担保されない。離婚した男に、思わず救いを求めながら、しかし、毅然とその差し出された僅かな札の入った封筒を突き返す姿に、実は救いがあり、それこそが30年前だった、と突きつけられる。
 大団円を、安穏ではなく、新たな場への再出発とした脚本に、あえて、いま、このタッチで、この物語を提示した作り手たちの強靭な意志を感じる。観終わったあと、一陣の風を体感して爽快なのは、そうした意欲が所以なのだれう。ささやかな佳品である

最終更新日:2026-05-08 16:00:01

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