雪夫人絵図(1950) 作品情報

ゆきふじんえず

雪夫人は、旧華族信濃家の一粒種のお姫様に育ち、養子直之を迎えて結婚したが、直之は放蕩無頼、雪夫人を愛しながらもこれに飽き足らず夫人を熱海の別荘においたまま、京都のキャバレーの女綾子に溺れ、いたずらに財産を蕩尽している。浜子は信濃家の旧領地である草深い信州から憧れの雪夫人に仕えるべく遥々熱海へやって来たがその夜東京の本邸で雪夫人の父親が亡くなり、その足で、雪夫人もつめている東京の本邸へ駆けつけることになる。このとき、箱根の山のホテルにいる菊中方哉も同道することになる。方哉は、父が信濃家出入りの琴の師匠であったので、幼い頃より雪夫人とは親しく彼女を愛している。雪夫人も方哉を愛し、唯一人の心の友としているが、夫と離婚して方哉と一緒になる決心はどうしてもつかない。直之に別れ話を持ち出す度にその暴虐な肉欲の嵐に征服されてしまう。弱い雪夫人は、心と肉体の矛盾にただ身悶えして悩むばかりで、心に頼む方哉には、直之を向うへまわして、雪夫人を奪い取ってくれるだけの強さはなかった。少年誠太郎と浜子とは、煮え切らない雪夫人の態度を歯がゆく思ったり、夫人と直之との不思議な愛欲図に思い惑ったりするのであった。雪夫人は父の死と同時に財政的な行き詰まりと、自分の生活的な独立を計るため、熱海の住居を旅館にして宇津保館と名付けその経営に当るが、京都から直之が綾子とその情夫で取巻の立岡を連れてきて、綾子に経営をやらせると言って雪夫人を困らせる。方哉に勧められ、今度こそはと離婚を決意して京都に直之を訪れた雪夫人はまたしても直之のために身も心も踏みにじられ睡眠薬を飲んで自殺を企るが果せず傷心の心を深めて熱海へ帰って来る。このときの騒ぎで、雪夫人は直之の子を宿していることを知るが、直之はそれを自分の子ではあるまいとなじる。直之の後を追って綾子がまたもや立岡と一緒に宇津保館へ乗り込んで来る。直之が破産状態にあるのを種に、立岡と共に宇津保館を乗っ取る魂胆である。雪夫人はこうした厳しい人生に生きて行くことが出来なかった。秋近い芦の湖畔に浜子の泣き叫ぶ声がする。湖中に消えた雪夫人を求めて呼んでいるのであった。

「雪夫人絵図(1950)」の解説

原作は雑誌『小説新潮』に連載された舟橋聖一の小説『雪夫人絵図』で、これを溝口健二監督が、「わが恋は燃えぬ」に次ぐ作品として取りあげたものである。製作は、滝村プロと新東宝との提携による滝村和男で、脚色は「わが恋は燃えぬ」の依田義賢と舟橋和郎と共同脚色、撮影は、「宗方姉妹」の小原譲治が担当している。配役は雪夫人に「執行猶予」の木暮実千代、浜子を「不良少女(1949)」「午前零時の出獄(1950)」の久我美子、菊中方哉を「宗方姉妹」の上原謙、直之を新派の柳永二郎、その他は浜田百合子、夏川静江、山村聡などの中堅である。

公開日・キャスト、その他基本情報

キャスト 監督溝口健二
原作舟橋聖一
出演木暮実千代 久我美子 上原謙 柳永二郎 加藤春哉 浜田百合子 浦辺粂子 夏川静江 山村聡 小森敏 石川冷 沢井一郎 水城四郎
配給 新東宝
制作国 日本(1950)
上映時間 88分

ユーザーレビュー

総合評価:4点★★★★、1件の投稿があります。

P.N.「グスタフ」さんからの投稿

評価
★★★★
投稿日
2019-10-21

耽美主義による女性の性と心の相克を描いた異色作で、溝口演出もいつもより暗示的なものになっているが、戦後の不振から抜け出たような安定感がある。男と女の怪しげな雰囲気と朝霧に霞む湖畔のシーンの美しさが溶け込み、独自の世界観が繰り広げられる。旧華族雪夫人を演じる小暮美千代が女性の色香を上品に醸し出して好演。放蕩の限りを尽くす夫直之、雪夫人の愛に答えられない琴奏者方哉、乗っ取りを企てる立岡とクズ男ばかりの極端な設定で、雪夫人の弱さが強調されている。愛欲シーンは当時の表現限界に抑えられていて、今より遥かに刺激的なのは興味深い。後の「雨月物語」にある幻想的な溝口演出を垣間見れるところも魅力だ。

最終更新日:2024-02-10 02:00:07

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