智恵子抄(1957) 作品情報

ちえこしょう

詩人であり彫刻家でもある高村光太郎が智恵子を知ったのは、それまでの彼の荒んだ生活を心配した友人八木夫妻の計いによるものであった。智恵子は油絵を描き、セザンヌに傾倒し、当時の進歩的女性誌「青踏」の表紙を描いたりしていた。光太郎は彼女の清純な、童女の如き純愛に強く心をうたれ過去の荒んだ生活を清算し、彼女と新しい生活を営もうと決心した。智恵子こそ、始めて光太郎に生きる喜び、愛の幸せを与えた女性であった。この新しい生活から、彼の智恵子との愛の喜びを謳いあげた詩は、限りなく生れ出た。一方、智恵子は芸術家光太郎を尊敬し、夫光太郎を愛し抜いて、彼によって自分の絵の完成を試みた。彼女は、ときには食事も掃除も忘れ制作に熱中した。だが、間もなく彼女は自分の才能を生かすべきか、よき家庭の主婦として一生を送るべきか悩みはじめた。そして、彼女は自分の才能に限りがあることを知り、芸術への愛着をたち切った。だが、傷つきやすい彼女の心は、絵画に対する自信の喪失によって、深い傷手を負わねばならなかった。その上、実家の父の死、没落、実弟光男の放蕩と相次ぐショックにガラスのようにもろい彼女の精神は狂った。容態の悪くなった彼女は、妹たまの嫁ぎ先九十九里浜に転地した。一週に一度訪れる光太郎を待ちわびて、彼と共にいる時だけが正気の智恵子であった。はかばかしくない病状に光太郎は彼女を東京の病院に移した。うす暗い病室で彼女は千代紙で紙絵を切り抜いた。彼女はそれを光太郎一人だけにみせた。彼はそこに彼女がかつて絵具では表現出来なかった立派な芸術への閃きを発見した。次々と切り抜かれる紙絵……だが彼女の身体はますます衰弱する一方である。光太郎は智恵子の死を恐れた。しかし、やがてそれは現実となった。彼女は駈けつけた光太郎の含ませたレモンの露を最後に静かに眼をとじた。だが智恵子は永遠に生きている--。光太郎の心の中で。その面影を抱き、ふたたび勇をふるって彼は十和田湖畔に裸像を建てる制作に立上った。智恵子の不滅の愛を讃えながら。

「智恵子抄(1957)」の解説

昨年病没した詩人・彫刻家高村光太郎が愛妻智恵子夫人を偲んでうたった詩集『智恵子抄』の映画化で美しい夫婦の愛情を描く。「「廓」より 無法一代」の八柱利雄が脚色、「美しき母」以来久々の熊谷久虎が監督した。撮影は「婚約指輪」の小原譲治。主演は「東京暮色」の山村聡、「大番」の原節子「地獄岬の復讐」の柳永二郎、「「動物園物語」より 象」の青山京子。ほかに三好栄子、賀原夏子、中北千枝子、太刀川洋一、左卜全など。

公開日・キャスト、その他基本情報

キャスト 監督熊谷久虎
原作高村光太郎
出演山村聡 原節子 柳永二郎 三好栄子 津山路子 太刀川洋一 瀬良明 武智正文 小野松枝 青山京子 三津田健 賀原夏子 土屋嘉男 森啓子 中北千枝子 左卜全
配給 東宝
制作国 日本(1957)
上映時間 97分

ユーザーレビュー

総合評価:5点★★★★★、1件の投稿があります。

P.N.「水口栄一」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2020-08-28

智恵子抄を観て、とても感動した。私は昔から高村光太郎さんの大ファンだ。今でも高村光太郎さんの道程とあどけない話という詩をいつも暗唱している。だからこの映画はひじょうに興味深かった。何よりも優しさに包まれていると思った。素晴らしいの一言に尽きる。智恵子という名前が気になった。私の初恋の人がちえこだったからだ。だが智恵子ではなく、千枝子だった。大好きだった。原節子さんは凄い美人だ。大好きだ。この映画を観ると、今でも心が熱くなる。

最終更新日:2022-07-26 11:03:47

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