西鶴一代女 作品情報

さいかくいちだいおんな

奈良の町はずれの荒寺の門前にたたずむ惣嫁と呼ばれる売女三人。その中に、老い疲れた顔を厚化粧にかくしたお春の姿もあった。乞食の焚火に明るんだ羅漢堂に並ぶ仏の顔に、お春は過去の幾人かの男の面影を思い浮かべるのだった。--若く美しかった御所勤めの頃のお春に懸想した公卿の若党勝之介は、彼女をあざむいて寺町の中宿へつれ込んだところを、折悪しく役人にふみ込まれた。お春とお春の両親は洛外追放、勝之介は斬首に処された。宇治に移り真葛原の出振舞に踊ったお春の美しさを見込まれ、江戸松平家のお部屋様に取り立てられ、嗣子までもうけたお春であったが、側近の妬みに逢って実家へかえされ、お春の流転が始まった。島原の廓に身を売られ、田舎大尽に身受けされようとしたが、彼が偽金作りと判り、笹谷喜兵衛の家へ住込女中となった。それも前身が判ったことから喜兵衛の女房お和佐に嫉妬され追い出された。扇屋の弥吉の妻になり平和な生活に落着けたのもつかの間、弥吉の急死で、笹屋の番頭文吉の世話になったが、文吉がお春のために店の品を盗んだことが発覚、文吉につれられ駆け落ちして桑名で捕えられた。それ以来、宿屋の飯盛女、湯女、水茶屋の女、そして歌丘尼から、老いさらばえて、辻に立つ惣嫁とまでなり果てたのだった。ふと自分の名を呼ばれ我にかえったお春は、老母ともから、松平家の呼出しを告げられた。もしや自分の生んだ子がとの喜びも裏切られ、お春は卑しい女に堕ちた叱責を受け、永の蟄居を申渡されたばかりであった。やがて嵯峨の片ほとりに草庵を営む老尼の姿が見られた。お春であった。

「西鶴一代女」の解説

溝口健二監督の「武蔵野夫人」に次ぐ作品で、製作はやはり児井英生。井原西鶴の『好色一代女』に取材して溝口健二が構成を練り、「武蔵野夫人」「大江戸五人男」の依田義賢が脚本を、吉井勇が監修に当たっている。撮影は「唐手三四郎」の平野好美である。出演者は、「稲妻草紙」の田中絹代、「馬喰一代(1951)」「霧笛」の三船敏郎、「結婚行進曲」の山根寿子、「風ふたたび」の浜田百合子、「ある夜の出來事」の宇野重吉のほか、清水将夫、菅井一郎、近衛敏明、市川春代、進藤英太郎、柳永二郎、加東大介などの脇役陣である。

公開日・キャスト、その他基本情報

キャスト 監督溝口健二
原作井原西鶴
出演田中絹代 山根寿子 三船敏郎 菅井一郎 松浦築枝 津路清子 近衛敏明 清水将夫 浜田百合子 草島競子 原駒子 市川春代 進藤英太郎 沢村貞子 大泉滉 加東大介 柳永二郎 宇野重吉 毛利菊枝 横山運平 玉島愛造 小川虎之助
配給 新東宝
制作国 日本(1952)
上映時間 137分

ユーザーレビュー

総合評価:5点★★★★★、4件の投稿があります。

P.N.「グスタフ」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2019-10-23

日本映画を代表する小津安二郎の名作「東京物語」に並ぶ溝口健二の代表作が、公開当時絶賛されなかったのが私には理解できない。晩年の名作群が映画発祥の地フランスで高く評価されてから、漸く後年日本でも正当に扱われるようになった。この「西鶴一代女」は、「祇園の姉妹」「雨月物語」「近松物語」と合わせて私的なベスト4と位置付けている。
ひとりの女性お春が体験する人生流転の逸話を歴史絵巻のように織り込んだ重厚な脚本が素晴らしい。様々な男たちに翻弄され、境遇に打ちのめされても生きるお春には、男と女の凝縮された形や姿が象徴的に描かれている。その男たちを羅漢堂に並ぶ仏像に比喩して懐かしむ女の凄さ。江戸松平家のお部屋様から夜鷹までを全身全霊で演じる田中絹代の名演。そして冷徹に突き放し描く溝口健二のリアリズム演出が、すべてをまとめ上げる。女性崇拝の普遍性に到達した溝口健二の力的傑作。

最終更新日:2024-02-24 02:00:07

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