映画『スターシップ9』アテム・クライチェ監督インタビュー

映画『スターシップ9』アテム・クライチェ監督インタビュー
提供:シネマクエスト

“オービター計画”というプロジェクトの犠牲となり、宇宙船の中でたった一人で誰とも会わずに生きてきた女性・エレナと、彼女を救おうとするエンジニアの青年・アレックス。近未来の地球を舞台に、二人の男女の運命を描いた映画『スターシップ9』が8月5日に公開。
脚本家としても活躍するアテム・クライチェ監督は、この作品が長編初監督ながらも映画専門誌のバラエティに「注目すべきスペインの若手映画製作者の一人」に選ばれた注目の若手監督だ。このたび、来日したアテム・クライチェ監督に作品についてインタビューを行った。

宇宙船の中に隔離されて生きてきて他者と生れて初めて出会う女性と、かつて事故を引き起こして何人もの犠牲者を出したエンジニアという問題を抱えた男女の美しいラブストーリーで、物語に引き込まれました。監督はこの物語をどのように着想されたのでしょうか?

■アテム・クライチェ監督:ラブストーリーと言ってくれてありがとう。この作品はいわゆる“Grounded Sci-Fi”、現実に根ざしたサイエンスフィクションを描く映画なんだけれど、もともと描きたいと思っていたコンセプトは愛なんだ。孤独な二人が出会って、お互いに救われていく物語を描きたいと思っていた。一般的にラブストーリーというと男性が女性を救うと考えられがちだけど、『スターシップ9』では男性も孤独な人生から救われていくんだよ。外界で暮らしている人間が閉鎖された環境で暮らしていた女性に救われていくというあり方が面白いと思ってるよ。

宇宙船の中で野菜を育てたり、ホログラムで投影されるセラピストなども面白かったです。プロダクション・デザインにもかなりこだわられたのでしょうか?

■監督:この作品の台本を書き終わって製作に入る際、まずデザイナーを最初に選んで欲しいとプロデューサーに頼んだんだ。だから、製作の初期段階からデザイナーのイニーゴ・ナヴァロさんに入ってもらって一緒に作っていける体制を作ってもらったんだ。それで約2年間、しっかり話し合って映画のルックを作り上げていったよ。低予算の映画で思ったとおりの世界観を実現していくには、とにかく最初の段階から美術にこだわっていくことが重要なんだ。自分の一番欲しい映像を実現するには、時間的な面でも費用的な面でも早めに計画立てていかないとね。

美しいシーンが満載でしたが、監督が一番描きたかったシーンはどこになりますか?

■監督:初めてエレナが宇宙船の外に出て、森の中に降り立つシーンだね。実はこのシーンは、作品の台本が書きあがる前、初期段階から僕の頭の中にあったんだ。閉ざされた環境の中で生きてきた彼女が、初めて外に出て地球の空気や光を感じる、それは彼女にとってもとても衝撃的な瞬間だと思うんだ。だから、感覚的なシーンとして視覚や嗅覚に訴えるようなシーンにしたいと思って撮影したんだ。

まさに、光のまぶしさ、太陽の匂い、草や虫の匂いなども感じられるような気がしました。

■監督:ありがとう。あのシーンはあまり僕の方で演出をせず、エレナを演じるクララ・ラゴに自由に演じてもらったんだ。彼女が素晴らしい表現をしてくれたよ。

他にお気に入りのシーンなどはありますか?

■監督:実は主人公が相談に行くセラピストのブースのシーンが気に入っているんだ。すごく小さなスペースにスタッフが何人も入らなければならなくて、とても大変な撮影だったからね。小部屋に40人くらいのスタッフが入って、室温は50度くらいになるし、メイクさんも5秒おきに俳優の汗を拭きに入るような状態だったんだよ。そんな状態なのに発砲シーンでは小さなダイナマイトを爆発させなきゃいけないし、大変だったよ。10時間くらい格闘したけれど、いいシーンになったと思っている。

監督はバラエティ誌に「注目すべきスペインの若手映画製作者の一人」に選ばれていますね。ご自身ではなぜご自分が選ばれたのか、どう思われていますか?

■監督:もちろん、期待される新人監督として選ばれるのはうれしいよ。ただ他の誰が選ばれてもおかしくないと思っているけどね。客観的に、自分のどこが魅力かと言えば、ジャンルを横断した自由なスタイルなんじゃないかなと思っているよ。どの映画の脚本を書く時も、入り口やツールとして作品のジャンルを選ぶけれど、そこにしばりつけられた映画作りはしないようにしている。自分が観客だったらどういう展開が見たいかと常に考えながら映画を作っているよ。

監督の好きな映画を教えてください。

■監督:好きな映画は選べないよ。25年間、毎週必ず映画館に通っているからね。“映画”というものが好きだから、具体的にこの作品というのは挙げられないかな。

どうして映画監督になろうと思ったのですか?

■監督:僕は物語を語るのが好きなんだ。だから最初は脚本家として映画業界に入ったんだよ。でも、脚本は結局は素材でしかないんだよね。監督の解釈が入るから、結局は監督の作品になってしまうんだ。同じ脚本であって映画監督によって全然違う作品になるからね。だから監督をやりたいと思っていた。この『スターシップ9』では脚本、監督を担当したから、すべて自分のコントロール下で思いどおりに作品を作り上げることができたよ。自分の選択がすべて正しいのか間違っていたのかはわからないけれど、間違った点も含めてすべて自分の責任で作り上げることができたのはうれしいね。

次回作の構想などはありますか?

■監督:実は今、構想中の作品が二つあるんだ。僕はストーリーの組み立てがはっきり固まるまでは脚本を書き始めないから、まだ脚本にも取り掛かっていないんだけど、ストーリー展開などを考えている状態なんだ。一つは『スターシップ9』のような“Grounded Sci-Fi”、SF作品だね。もう一つは『ヒドゥン・フェイス』に似たスリラー作品なんだ。まだどちらを次に作るかは決まっていないけど、この二つのどちらかになりそうだね。

これまで6本の短編映画を監督/脚本し、『ヒドゥン・フェイス』(2011)、『ゾンビ・リミット』(2013)という二本の長編作品で脚本を担当しているアテム・クライチェ監督。質問の一つひとつに言葉があふれ出すように丁寧に答えてくれるその姿からは、作品に対する熱い想いを感じさせてくれた。スペインやコロンビア、キューバなど、さまざまな地で映画を作った経験を持つ1976年生まれのアテム・クライチェ監督、これからの活躍が期待される注目の若手監督だ。

【取材・文】松村 知恵美

最終更新日
2017-08-07 12:59:30
提供
シネマクエスト(引用元

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